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9話 何故、我慢しなければならないの?

last update Last Updated: 2024-12-30 22:02:32

「ところで、アデリーナ様。もうすぐ学園祭ですけど、後夜祭には参加されるのですか?」

オリビアはミルクティーを飲みながら尋ねた。

「ええ、今年最後の後夜祭だから参加するわ」

「それでは、パートナーはどうされるのですか?」

オリビアは自分自身もパートナーのことで悩んでいたのでアデリーナのことが気になったのだ。

「一応、婚約者がディートリッヒだから彼がパートナーになる予定なのだけど……恐らく無理かもしれないわ。それに何だか嫌な予感がするし……」

「嫌な予感? それって……」

「いいえ、何でもないわ。それより、オリビアさんはどうなの? 確か婚約者がいたはずよね?」

アデリーナには婚約者がいる話はしていたが、詳しい事情はまだ説明したことは無かった。

「は、はい。そのことなのですが……実は……」

ついにオリビアは全てを告白することにした。

婚約者のギスランは15歳の異母妹に夢中なこと。 父親からは疎まれ、3歳年上の兄ミハエルからは憎まれている。義母からは無視され、15歳の異母妹からは馬鹿にされていること。

その為、使用人たちからも無視をされている……それら全てを告白したのだ。

アデリーナはその間、一度も口を開くこと無く黙って聞いていたが……やがて話が終わるとミルクティーを一口飲み……。

カチャッ!

乱暴にティーカップを皿の上に置いた。

「ア、アデリーナ様?」

今まで一度も見せたことのない態度にオリビアは戸惑う。

「……信じられないわ……一体、その話は何なの!? オリビアさんにそんな態度をとるなんて……許せないわ!」

アデリーナの声が店内に響き、中にいた数人の学生客たちがギョッとした様子で2人を見つめる。

「アデリーナ様。私の為に怒ってくださるのは嬉しいですが、私なら大丈夫ですから」

「いいえ、少しも大丈夫じゃないわ。いい? オリビアさん。あなたのお母様が亡くなったのは、あなたのせいではないわ。こういった言い方はあまり良くないかもしれないけれど、そうなる運命だったのよ。それをあなたの家族たちは何て酷いことをするのかしら。こんなにオリビアさんは優秀なのに」

憤慨した様子でアデリーナは続ける。

「あなたのお兄様は、この学園に入学することすら出来なかったのでしょう? でもオリビアさんは入学し、学年で上位の成績を修めている。もっと誇るべきよ。なのに、何故そんな窮屈な思いをしているの?」

「そ、それは……ずっと、そういう環境で育ってきたので……」

するとアデリーナはオリビアの手を握りしめてきた。

「いい? オリビアさん。あなたはとても優秀な方、そして魅力のある女性よ。あなたがその気になれば学園の推薦状を貰って大学院に進むことも、素晴らしい就職先も斡旋してもらえるのよ? 私も推薦状を頂いて、大学院に行くことが決定しているし」

「そうでしたよね、さすがはアデリーナ様です」

「ありがとう、オリビアさん……ってそうではなくて、つまりあなたは、もっと自分に自信を持つべきよ。私から言わせれば、フォード家で一番優秀なのはあなた。それなのに何故、我慢しなければならないの? 家族に媚を売って生きるのはもう、おやめなさいよ」

「アデリーナ様……」

それは、オリビアの価値観が崩れる瞬間だった――

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    —―翌朝 静かなダイニングルームに向かい合わせで座るランドルフとオリビアは無言で食事をしていた。ランドルフは先ほどからチラチラとオリビアの様子を伺っている。娘に話しかけるタイミングを計っているのだが、オリビアは視線を合わせる事すらしない。何とか会話の糸口をつかみたいランドルフは、そこで咳払いした。「ゴ、ゴホン!」「……」しかし、オリビアは気にする素振りも無く食事を続けている。ついに我慢できず、ランドルフは声をかけた。「オ、オリビアッ!」「……はい、何でしょう」顔を上げるオリビア。「どうだ? オリビア。今朝の朝食はお前の好きな料理を用意したのだが……美味しいかね?」「はい、美味しいです。ですがこのボイルエッグも、ブルーベリーのマフィンにグリーンスープはシャロンの好きなメニューではありませんか?」「何? そうだったか?」「ええ、そうです。私は卵料理なら、オムレツ。ブルーベリーのスコーンに、オニオンスープが好きです。尤も、一度もお父様に自分の好きな料理を聞かれたことはありませんので、ご存じありませんよね?」「そ、そうか……それはすまなかったな」途端にしおらしくなるランドルフ。「いえ、私は何も気にしておりませんので謝る必要はありません。それにどの料理も全て美味しいですから」「本当か? なら良かった。だが、オリビア。今回の件で私は良く分かった。この屋敷の中で、まともな家族はお前だけだということをな。今まで蔑ろにしてきた私を許してくれるか? これからは心を入れ替えて、お前を尊重すると約束しよう」「はぁ……」オリビアは呆れた様子で父親の話を聞いていた。(一体今更何を言っているのかしら? 生まれてからずっと、私の存在を無視してきたくせに。もうこれ以上話を聞いていられないわ。丁度食事も終わった事だし、退席しましょう)「お父様。食事もおわりましたし、これから大学へ行くのでお先に失礼します」椅子を引いて席を立ったところで、ランドルフが呼び止める。「ちょっと待ってくれ! オリビアッ!」「何でしょうか? まだ何かありますか?」内心辟易しながら返事をする。「ああ、ある。昨夜の件の続きだが……頼むオリビア! この間お前が食事してきた店を教えてくれ! この通りだ! 最近新聞社から、催促されているのだ! 若い世代に人気の定番料理に関するコラムを書い

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    「分かりました。お父様とどのような話をしたのか、お話いたします」「そうよ! 早く言いなさい!」ゾフィーは身を乗り出してきた。「ですが、その前に条件があります。その条件を飲んでくれない限り、お話することは出来ません」「どんな条件よ? お金でも欲しいのかしら? いくら欲しいのよ」「お金? そんなものは別にいりません。条件は一つだけです。私の話が終わったら、一切の質問もせずに即刻この部屋を出て行って下さい。いいですか?」「分かったわよ。それじゃ、どんな話をしていたのか言いなさい!」膝を組み、腕を組む。何処までも高飛車な態度のゾフィー。「お父様は、言ってましたよ。もう我が家は家庭崩壊だ、あんな家族と一緒の食事は楽しめないからごめんだと。これからは私と2人で食事をしようと提案してきたのです」(もっとも、そんな提案私はお断りだけどね)その話に、見る見るうちにゾフィーの顔が険しくなっていく。「な、な、何ですって……? ランドルフがそんなことを……? ちょっと! それは一体どういう……!」「そこまでです!」オリビアはゾフィーの前に右手をかざし、大きな声をあげた。その声に驚き、ゾフィーの肩が跳ねあがる。「ちょ! ちょっと! そんな大きな声を上げないでちょうだい! 驚くでしょう!?」「そこまでです。先ほどの私との約束をもうお忘れなのですか? 話を聞いた後は一切の質問もせずに即刻この部屋を出て行くと言う約束を交わしましたよね?」「う……お、覚えているわよ!」「だったら、今すぐ出て行って下さい。何か言いたいことがあるなら私にではなく、父に言っていただけますか?」「な、何ていやな娘なの!? ランドルフに聞けないから、お前の所に来たっていうのに……!」「頼んでもいないのに、勝手にこの部屋に来たのはどちら様でしょうか? とにかく、約束は守って頂きます。今すぐに出て行って下さい」オリビアはゾフィーを見据えたまま、部屋の扉を指さした。「くっ! オリビアのくせに生意気な……! ええ分かりましとも! 出て行くわよ! 出て行けば良いのでしょう!? 全く……ちょっとランドルフに贔屓にされたからって、いい気になって!」椅子に座った時と同様に、ガタンと大きな音を立ててゾフィーは立ち上がった。「……お邪魔したわね!」「ええ、そうですね」睨みつけるように見下ろすゾ

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   41話 迷惑な訪問者

    「ふぅ……今日は充実していたけど、何だかとても疲れた1日だったわ。こんな時はアレね」入浴を終えて、自室に戻って来たオリビアは事前にトレーシーが用意してくれていたワインをグラスに注いで香りを楽しむ。「フフ、いい香り」カウチソファに座り、アデリーナが勧めてくれた恋愛小説を手に取った時。—―ガチャッ!乱暴に扉が開かれ、義母のゾフィーがズカズカと部屋の中に入ってくるなり怒鳴りつけてきた。「オリビアッ! 一体今まで何処へ行っていたの! 私は何度もこの部屋に足を運んだのよ? 手間をかけさせるんじゃないわよ!」いきなり入って来たかと思えば、耳を疑うような話にオリビアは目を見開いた。「は? ノックもせずに部屋に入って来たかと思えば、一体何を言い出すのですか? まさか人の留守中に勝手に部屋に出入りしていたのですか?」「ええ、そうよ! これでも私はお前の母なのよ! もっとも血の繋がりは無いけどね。娘の部屋に勝手に入って何が悪いのよ」ゾフィーは文句を言うと、向かい側の席にドスンと腰を下ろした。「血の繋がりが無いのだから、私たちは他人です。大体、今まで一度たりとも私を娘扱いしたことなど無かったではありませんか!」「おだまり! オリビアのくせに! 戸籍上は親子なのだから、私はお前の母親なのよ! その親に対して口答えするのではない!」「はぁ? 今朝、散々シャロンに罵声を浴びせられていましたよね? そのセリフ、私にではなく、むしろシャロンに言うべきではありませんか?」「シャロンは部屋に鍵をかけて、閉じこもってしまったのよ! 取りつく島も無いのよ! 今はそんな話をしに来たわけじゃないわ。オリビアッ! お前、一体私たちに何をしたの! 何の恨みがあって、家庭を崩壊させたのよ!」あまりにも八つ当たり的な発言に、オリビアは怒りを通り越して呆れてしまった。「一体先程から何を言ってらっしゃるのですか? 意味が分かりません。大体元からいつ壊れてもおかしくない家族関係だったのではありませんか? そうでなければ簡単に崩壊したりしませんから。念の為、言っておきますが私には全く関係ない話です」「関係ないはずないでしょう!? さっきも父親と2人きりで楽しそうに食事をしていたでしょう? 一体何の話をしていたの! 言いなさい!」ビシッとゾフィーは指さしてきた。「あぁ……成程。つまり私と

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   40話 媚びる父、取り合わない娘

    「はぁ、そうですか……」別にありがたみもない提案に、適当に返事をするオリビア。(さっさと食事を終わらせて、早々に席を立った方が良さそうね)無駄な会話をせずに食事に集中しようとするオリビアに、父ランドルフは上機嫌で色々話しかけてくる。煩わしい父の言葉を「そうですか」「すごいですね」と、適当に相槌を打って聞き流していたオリビアだったのだが……。「ところでオリビア、昨日町へ1人で食事へ行っただろう? 何という店に行ったのだ? 私にも教えてくれ。是非その店に行ってみたいのだよ。私が行けば店の宣伝にもなるしな」この台詞に、オリビアは耳を疑った。「……は?」カチャンッ!手にしていたフォークを思わず皿の上に落としてしまう。「どうした? オリビア」娘の反応にランドルフは首を傾げる。「お父様、今何と仰ったのでしょうか?」「何だ、よく聞きとれなかったのか? 昨日お前が食事をしてきた店を教えてくれと言ったのだが」「そうですか……では、そのお店に行かれた後はどうなさるおつもりですか?」オリビアは背筋を正すと父親を見つめる。「それは勿論食事をするだろうなぁ」「なるほど、お食事ですか……それで、その後は?」「は? その後って……?」まるで尋問するかのような口ぶり、いつにもまして鋭い眼差し……ランドルフはオリビアから、何とも形容しがたい圧を感じ始めていた。「答えて下さい、食事をした後の行動を」「そ、それは……味の評価を書く為に記事を書くだろうな……」(な、何なんだ……オリビアの迫力は……当主である私が娘に圧されているとは……)いつしかランドルフの背中に冷たい物が流れていた。そんなランドルフにさらにオリビアは追い打ちをかける。「はぁ? 記事を書くですって? 一体どのような記事を書くおつもりですか?」「そんなのは決まっているだろう。美味しければそれなりの評価を下すし、まずければ酷評を書くだろう。何しろ、こちらは金を支払って食事をするのだから当然のことだ。私の責務は世の人々に素晴らしい料理を提供する店を知ってもらうことなのだから」娘の圧に負けじと、ランドルフは早口でぺらぺらとまくしたてる。「お店から賄賂を受け取って、ライバル店をこき下ろすことがですか?」「う! そ、それは……ほんの特例だ! あんなことは滅多に起こらないのだよ!」「滅多にどころ

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   39話 不快極まりない台詞を吐く父

    —―18時 オリビアは自室で大学のレポートを仕上げていた。このレポートは単位に大きく関わってくる。アデリーナの助言によって、大学院進学を決めたオリビアにとっては重要なレポートだ。「……ふぅ。こんなものかしら」ペンを置いて一息ついたとき。—―コンコンノック音が響いた。「誰かしら?」大きな声で呼びかけると扉がほんの少しだけ開かれて、トレーシーが顔を覗かせた。「オリビア様……少々よろしいでしょうか?」「ええ、いいわよ。入って」「失礼します」かしこまった様子で部屋に入って来たトレーシーは深刻そうな表情を浮かべている。「トレーシー。どうかしたの?」「あの、実は旦那様がお呼びなのですが……」「え? お父様が?」今迄オリビアは個人的に父に呼び出されたことはない。ひょっとすると、今朝の出来事で何か咎められるのだろうか……そう考えたオリビアは憂鬱な気分で立ち上がった。「分かったわ。書斎に行けばいいのね?」「いえ、違います。ダイニングルームでお待ちになっていらっしゃいます」「え? ダイニングルームに?」「はい、そうです」「おかしな話ね……今まで食事の時間に呼ばれたことはないのに」「そうですよね……」オリビエとトレーシーは顔を見合わせた——**「お待たせいたしました。お父……さ……ま?」ダイニングルームに入ってきたオリビアは驚いた。何故なら真正面に父——ランドルフが満面の笑みを浮かべて待ち受けていたからだ。父の左右には給仕を兼ねたフットマンが立っている。しかも、いつも着席しているはずの義母、シャロン、兄ミハエルの姿も無い。「おお、待っていたぞ。オリビア、さぁ。席に着きなさい」ランドルフは自分の向かい側の席を勧めてくる。「はぁ……失礼します」そこへ、スッとフットマンが近づくとオリビアの為に椅子を引いた。これも初めてのことだった。何しろこの屋敷の使用人達は全員オリビアを見下していたのだから。「……ありがとう」慣れない真似をされたオリビアは落ち着かない気持ちで礼を述べる。「いいえ、とんでもございません」ニコリと笑うフットマン。……彼は今まで一度もオリビアに挨拶すらしたことが無い使用人だ。「よし、それでは早速食事にしようか?」ランドルフの言葉と同時にワゴンを押したメイドが現れ、次々に料理を並べていく。どれも出来たて

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   38話 変貌した兄とオリビエの心変わり

     時々雷がゴロゴロとなる土砂降りの中、馬車はフォード家の屋敷前に到着した。「オリビア様、足元に気をつけて降りて下さい」御者に扉を開けてもらい、馬車から降り立ったオリビアは銀貨1枚を御者に差しだした。「今日は大雨の中、送迎してくれてありがとう。はい、これ少ないけど何かの足しにしてちょうだい」フォード家では給料以外で普通、使用人に余分なお金を渡すことはない。当然オリビアの行動に御者は驚く。「ええっ!? これはぎ、銀貨じゃありませんか! よろしいのですか!? こんなに頂いても!」青年御者――テッドは歓喜した。何しろ銀貨1枚というのは、一か月分の給料の5分の1に相当する金額だからだ。当然、賢いオリビアはその事を知っている。それに彼には近々結婚を考えている女性がいて、お金を貯めていると言う噂話も承知の上だ。「いいのよ、これは大雨の中身体を張って送迎してくれた手当てだから。その代わり、これからも天候が悪いときは送ってくれるわよね? テッド」オリビアが笑顔で頷くと、テッドは声高に叫んだ。「俺の名前も御存知だったのですか!? ええ、ええ! 当然ですとも! 今後はこの命を懸けてでも、オリビア様を目的地に必ず送り届けることを誓います!」「そう? それは頼もしい言葉ね。今日はお疲れ様。じゃあね」「ありがとうございます! ありがとうございます!」テッドはオリビアが屋敷の中に入るまで、ペコペコ頭を下げ続けた。こうしてまた1人、オリビアは使用人を味方につけることに成功したのだった――屋敷に入り、自室に向かって歩いていると次々と使用人達が挨拶してくる。「お帰りなさいませ、オリビア様」「オリビア様、お帰りなさいませ」「オリビア様にご挨拶申し上げます」今や彼女を無視したり、暴言を吐くような使用人は誰一人いない。たった1日で使用人の態度がこんなに変わるのは、驚きでしかなかった。勿論今朝のオリビアの行動が事の発端でもあるのだが、父ランドルフと兄ミハエルが、今後一切オリビアを無視したり蔑ろにしないようにと密かに命じていたのが大きな理由の一つであったのだが……その事実を彼女はまだ知らない。自分の部屋に辿り着いたオリビア。ドアノブに手をかけようとした時、背後から声をかけられた。「オリビア」「え?」振り向くと、兄のミハエルが笑顔で自分を見つめている。オリビ

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